初夏・植物/柿はカキノキ科の落葉高木で、北海道をのぞく日本全土に分布。6月頃、黄色味をおびた白い合弁花をつける。若葉と一緒に咲くため目立たないが、地面に落ちた花を目にする。雌雄同株。
ふるさとへ戻れば無冠柿の花 高橋沐石
父が倒れた。母によれば、もう若くはないのにろくに休みもとらず働きづめだったらしい。
さんざん考えた末、俺は東京での生活を捨て、家業をつぐ決意をした。いつかはこういう日がくると、うすうす感じてはいたのだけれど。
ここでは、営業で同僚がうらやむ成績をあげ、会社から何度も表彰された経歴なんてなんの役にも立ちそうにない。知識も経験もまったくない職人の世界で、一から学んでいかなくちゃならないのだ。
作業場では、俺より小柄なはずの父が大きく見える。その背後には祖父の代からあるらしい柿の木が生い茂っていて、あたりまえだが父よりももっとずっと大きくてたくましい。
いまが盛りの花はなんとも冴えない感じで目立たない。まさに、この俺だ。
けれど秋になれば、思わず手を伸ばしたくなるような立派な実がたくさんかがやくにちがいない。