蚯蚓鳴く(みみずなく)

三秋・動物/蚯蚓には発音器官はなく鳴かない。夜どこからともなく聞こえてくるジーッという音を蚯蚓が鳴いているといったが、実際には螻蛄けらの鳴き声。「亀鳴く」「蓑虫鳴く」などと同様、空想的、浪漫的な季語として俳人に好まれている。


みみず鳴く日記はいつか懺悔ざんげ録  上田五千石


おけらが鳴いているという、あのジーッという耳鳴りのようなへんな音は、私の記憶では秋というより5月頃、日中は汗ばむような陽気になってきたころの夜にきこえてくると思うのだが、秋の季語になっている。ネットなどで調べてみても、おけらは初夏によく鳴くとの記述がみられる。

そもそも季語としては蚯蚓が鳴いていることになっているわけだし、この句の場合も、初夏というより、すこし冷たい秋風が吹きはじめた夜、ひとり机に向かってちまちまとした字で日記を書きつけている人物をイメージする。

日記って、基本的には毎日つけるものだろうけれど、楽しかったり、うれしかったりしたこと、そういうたわいない記録ではなくて、気がついたら懺悔ばかりつづっていたなんて、いったいどうしたことだろう。悪人というより、内省的な小心者か。

ジーッという蚯蚓の声が耳にこびりついて離れない。まるで自分を責めているかのよう。その不快な声の向こうに、なんとか主の声を聴こうとして、日記を前に耳を両手でふさいでいるひとりの男が見えてくる。


上田五千石(うえだごせんごく)1933-1997年。東京生まれの俳人。秋元不死男に師事。「畦」を創刊・主宰。


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