三夏・人事/蚊や蠅など虫の侵入を防ぎ、風を通すため、目の細かい網を張った建具。
網戸して外より覗く己が部屋 柴田佐知子
子供時分、生家のトイレの窓には網戸がなかった。用を足している最中に、侵入した大きなアシダカグモが壁にはりついているのに気づき硬直したことは一度や二度ではない。
なぜ、網戸をつけてくれと親に頼まなかったのか。あるいは頼んだけれど却下されたのか。記憶にない。記憶にあるのは、アシダカグモの、あのすばやい動きだけだ。恐怖!
さて、網戸ごしに「己が部屋」をのぞいている佐知子さん。どこか昭和の木造住宅の気配。
なんとなく夜の光景を思う。ちょっと外に出たついでに、なにげなく光のもれ出ている自分の部屋を網戸に顔をくっつけるようにしてのぞき見している感じ。
机の上には空のコップ、ひらいたままの漫画本、ラジオからは歌謡曲が低く流れている。
だれもいるはずがないのに、いまにも「わたし」が現れて、さっきのつづきを始めるような……。だとしたら、わたしはどこへもどればいいのだろう。