白木槿(しろむくげ)

初秋・植物/木槿は中国・インド原産のアオイ科の落葉低木。7~9月頃、直径5~15センチの五弁花を枝先に次々とひらく。花色は白やピンク、赤など。早朝に咲いて夕方しぼむので、はかないもののたとえにもなる。韓国の国花。


亡き父の剃刀借りぬ白木槿  福田蓼汀


「借りぬ」がこの句の肝だろう。

父はもう亡いのだから剃刀を使ったとしても返す必要などあるはずがなく、単に「使う」でいいはずなのに、それをあえて「借りぬ」といったところに残された息子の思いすべてがこめられているのではないか。

鏡に映る髭面の男が父の剃刀をいままさに肌にあてた。じょりじょりとする感触。ひりつく痛み。かすかに血がにじみ出る。

生きているかぎり髭は剃ってもまた生えてくる。

庭に咲く白木槿は夕暮れにはしぼんでしまうけれど、あすの朝にはまた新たなつぼみがほころぶだろう。その一輪に出会えるのは、今日という一日を生ききってこそなのだ。


福田蓼汀(ふくだりょうてい)1905-1988年。山口県生まれの俳人。高浜虚子に師事。「山火」を創刊・主宰。多くの山岳俳句を詠んだ。





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