檸檬(れもん)

晩秋・植物/ミカン科の常緑低木でインド原産。日本には明治初期に渡来し、瀬戸内地方で栽培されている。5~11月頃に数回花をつけるが、果実は5月に咲いたものが12月頃に黄熟する。紡錘形で芳香が高く、酸味が強い。ビタミンCに富み、ジュースや料理などに用いる。


髪なほす鏡の隅に檸檬の黄  安西可絵


ドレッサーの前に腰かけ、みだれた髪を手でなでつけている。その動きがぴたりと止まる。

鏡の隅に映った黄色い檸檬。テーブルの上にでもころがっているのか。

ひとり残された部屋はどこか虚ろでよそよそしく、自分の存在すらも現実感に乏しい。

そのなかで唯一、いつもはそこにない檸檬の香り、あざやかな黄だけが、たったいままで時間も空間も肉体も精神も、すべてを共有した(はずの)人が間違いなくここにいたのだと、心につよく訴えかけてくる。

檸檬は幸福としてそこにあるのか、あるいは残酷としてそこにあるのか。

彼女はこのあと、その黄色い果実を胸に抱くのか、投げ捨てるのか。それが気にかかる。


 

0 件のコメント:

コメントを投稿