三春・天文/春の空にうるむように見える星。あたたかさやなつかしさを感じさせる。
盛り場の裏くらがりに春の星 福田蓼汀
いきなりがつんと一発やられた。後頭部だ。
ふり返ることもできず、うずくまった。
奴にちがいない。油断した。裏道に入ったのがまずかった。
これ以上深入りするなという警告のつもりだろう。
ゆっくり立ち上がると意識が遠のいて仰向けに倒れた。
次に目を開けたとき、なにかぽつんと淡い光が見えた。星か。
しずかに上半身を起こす。頭ががんがんする。酒のせいか。いや、殴られたんだった。
見上げた空には、たしかに星がひとつある。
あいつの部屋からも見えているだろうか。あいつなら黙って一晩泊めてくれるだろう。
千年もためこんでいたみたいな大きな息を吐き出してから、ふらつきながらも、俺はネオンサインのごちゃごちゃした通りに向かって歩きはじめた。
福田蓼汀(ふくだりょうてい)1905-1988年。山口県生まれの俳人。高浜虚子に師事。「山火」を創刊・主宰。多くの山岳俳句を詠んだ。
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