石鹸玉(しゃぼんだま)

三春・人事/ストローの先に石鹸水をつけ、息を吹き込んでふくらませる遊び。


鉄格子からでも吹けるしやぼん玉  平畑静塔


早くここから出たい。あたしはどうしてこんなところに閉じ込められているんだろう。

鉄格子の間から放たれたしゃぼん玉は風にのってぐんぐん病院の庭を遠ざかっていく。

あの公園にいる目の大きな女の子。

あたしには娘がいるはずだ。きっとあの子だ。なぜ、あそこに行って一緒にしゃぼん玉ができないんだろう。

早くここから出たい。

いつだったか、しゃぼん玉を二人でつくって、たくさん飛ばしたことがあったような気がする。

いや、ちがう。女の子はあたしだ。あたしがしゃぼん玉を吹く横で、じっとあたしを見つめてる女の人はだれ?

しゃぼん玉がどんどん増えて、あたしの周りをぐるぐるまわって、もう女の人はいるのかどうかわからない。わからない……。

ねえ、先生。あたしはどこも悪くない。早くここから出たいだけ。

あの、虹色のきれいな大きなしゃぼん玉になって。


平畑静塔(ひらはたせいとう)1905-1997年。和歌山県生まれの俳人・精神科医。


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