北窓開く(きたまどひらく)

仲春・人事/寒さを防ぐため冬のあいだ閉めきっていた北側の窓を開けること。


北窓を開け父の顔母の顔  阿波野青畝


長く入院していた父が死んだ。冬の間は寒々しくてなにもする気がおきず、そのままにしていた父の寝室に入り窓を全開にした。もうつめたい北風が吹きこむことはなく、やわらかな外気が鼻先にゆらぐ。

広場で子供たちが声をあげながら、ボールを追って駆けまわっているのが見える。

いい天気だ。桜並木に花見の人が集まってくるのももうすぐだろう。

自分の部屋からも毎年花見ができるといってこの家を気に入っていた父。母も同じことをいっていたっけ。いまごろ再会した母とどんな話をしているのか。

今年はこの部屋に二人の写真をならべて、一緒に花見でもしてみるかな。


阿波野青畝(あわのせいほ) 1899-1992年。奈良県生まれの俳人。高浜虚子に師事。水原秋櫻子、山口誓子、高野素十らと「ホトトギス」の黄金時代を担った。「かつらぎ」を創刊・主宰。


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