三夏・人事/襟元が大きくひらいたデザインのシャツのこと。ネクタイを結ばずに着る。
逢ひに行く開襟の背に風溜めて 草間時彦
あれは高校3年の夏だった。あまりに暑いので、兄がサイズが合わず着なかった開襟シャツを試してみたら、首まわりに風が通るだけでずいぶん凌ぎやすいことがわかった。以来、好んでそのシャツを着て登校した。
夏服ではむろんネクタイの着用は求められなかったが、なぜか開襟シャツは禁じられていた。まじめくさった顔で校則違反だと指摘する奴や、おやッという表情で襟元に目をとめる先生もいたが、だって暑いじゃんと胸中でつぶやき、涼しくなるまで開襟シャツの世話になった。
残念ながら、当時私にはその開襟シャツをふくらませるほど懸命に自転車をこいで逢いにいくような相手はいなかった。
けれどこの一句さえあればいつだって、私はあの夏の日の私自身に会いにいくことはできるのだ。
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