燕帰る(つばめかえる)

仲秋・動物/春に渡ってきて繁殖した燕は9月頃、群れをなして海を越え、フィリピンやインドネシア、マレーシアなどで越冬する。軒下に巣が残され、さみしさを感じる。


ひたすらに飯炊く燕帰る日も  三橋鷹女


あれやこれや忙しい日々を送るなか、軒下で懸命に子育てする燕の姿を見守るのは楽しみのひとつだった。

巣立った燕たちは、しばらくはそのへんを飛びまわっていたのだろうが、いつのまにかもう見かけることもなくなった。

あらためて見上げたからっぽの巣。なんだか置いてけぼりにされた気分。

あの子たちはいまごろどこを旅しているのだろう。わたしもこの家を離れて、どこか知らないまちの空をながめてみたい――。

ふとよぎった思いを追い払うように頭をふりふり家に入ると、きょうも台所に立って夕飯の支度を始める。

これからも毎日、くる日もくる日も、自分のため家族のため飯を炊くのがわたしの日常だ。

燕は燕、わたしはわたしをつづけていくだけ。そう自分に言い聞かせながら。


三橋鷹女(みつはしたかじょ)1899-1972年。千葉県生まれの俳人。原石鼎・小野蕪子に師事。橋本多佳子、中村汀女、星野立子らと同時代に活躍した。 





0 件のコメント:

コメントを投稿