冷し中華(ひやしちゅうか)

三夏・人事/ゆでて冷やした中華麺の上に錦糸卵や細く切った胡瓜、ハムなどの具を彩りよくのせ、酢醤油などのたれをかけた料理。


冷し中華時刻表なき旅に出て  新海あぐり


夏休みの一人旅。何かをちょっと変えてみたくて。

とりあえず決めたのは北へ向かうことだけ。鈍行に乗って、景色をながめ、気が向いたら降りてみる。

知らないまちの知らない食堂。知らないおばさんが注文をとりにきて、知らないおじさんが包丁を握ってる。

せっかくだから食べたことのないようなものを頼めばよかったのに、つい暑さに負けてしまった。いや、自分に負けたというべきか。

こんなことじゃ何も変えられないぞと心のなかで己を叱咤しながら、一人ですする冷やし中華。なんの変哲もない冷やし中華。

いつかこの味を思い出す日がくるのだろうか。食べたはずなのに思い出せない「思い出の味」として。

この店を出たらどこへ行こう。次に乗る列車の時刻は自分で決める。だから時間はたっぷりとある。すべてはこの自分のなかにある。


新海あぐり(しんかいあぐり)1952年、長野県生まれの俳人。藤田湘子・鍵和田秞子に師事。



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