仲秋・人事/夏の間涼をとるためはずしてあった障子を秋になってもどすとき、紙を貼り替えること。貼り上げた障子は純白ですがすがしい。部屋のなかが明るくなり、気分も新たになる。
貼り終へて母は障子の向う側 今瀬剛一
障子のある家に住んでいたとき、両親と一緒に貼り替えたことがある。めんどうくさかったけれど、黄ばんだ紙が白くなると、気持ちもさっぱりとして、部屋に入る光もうつくしく新鮮な感じがした。
この句の母は病弱で臥せっているのかもしれない。すこしでも気分を上向かせようと、母の部屋の障子も思いきって貼り替えることにした。
作業をしている庭から見やる母はしずかに目をつむっている。貼り終えた障子を敷居にもどし、そっと閉める。
寝息をたてているわけではないけれど、障子ごしにもなんとなく母の気配が伝わってくる。早く起きられるようになるといいのだが。
障子を開けた部屋から、秋の草花が明るくゆれる庭をながめる母の姿を思い描いてみる。
今瀬剛一(いませごういち)1936年、茨城県生まれの俳人。能村登四郎に師事。「対岸」を創刊・主宰。
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