青嵐(あおあらし)

三夏・天文/青葉の繁るころに吹きわたるやや強い南風。


うごかざる一点がわれ青嵐  石田郷子


ドローンで上空から自分自身を撮影しているような光景。

吹き荒れる風を全身に受け、強い意志のかたまりとなったような「われ」。

私にとって、それはひとつの憧れだ。

二十五の夏、私はアイルランドのモハーの断崖に立っていた。柵などない崖っぷちで、大西洋をごんごんとわたってくる強風に倒されぬよう足をふんばっていた。

この海原のはるか彼方にはアメリカ大陸があるのか。

見えるはずのない大陸の影に目をこらし立ち尽くしていたあのとき。

ロンドンにもどってからどうするのか。学校をつづけるのか、それともいっそ休んで、ドーバーをわたってみるか。

強い意志のかたまりになりたかった・・・・・・われが、青い海風に抗うようにして、まだあの断崖に立っている。


石田郷子(いしだきょうこ)1958年、東京生まれの俳人。山田みづえに師事。





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