夏めく(なつめく)

初夏・時候/緑が濃くなり、初夏の花々が咲き、夏らしくなること。生活面でも夏らしさが感じられるようになる。


夏めくや卓布にふるる膝がしら  田中裕明


子供のころ、暑くなってくると、両親がなにかちょっと思いきった感じで茶の間の炬燵を片づけ、簡単にはひっくり返せない長方形のごつい座卓をでんと据えて、そこに透明な柄の入った白いテーブルクロスがかけられた。

寒いときは炬燵布団をめくって足を差し入れていたのが、そうなるとテーブルクロスの端っこが微妙に膝や腿のあたりにあたって、くすぐったいような、うっとうしいような気持ちになったものだ。

この句は、たとえば恋人の家を訪れ、客間で緊張気味に正座しているところを思い浮かべる。

初めて顔を合わせた彼女の両親。母親は気さくに応じてくれるが、お決まりのように父親は黙って座卓の上を見つめるばかり。

その二人の背後、陽ざしに庭木の若葉がきらめいている窓からはさわやかな風が流れこんでくる。

そろそろ彼女のとりなすような話題も尽きてきた。

さっきからずっと気になっていた、テーブルクロスが膝がしらにふれる感触ばかりが強くなって……。

思わず、だれとも知れない彼に、がんばれっていってやりたくなってくる。


田中裕明(たなかひろあき)1959-2004年。大阪府生まれの俳人。波多野爽波に師事。「ゆう」を創刊・主宰。 



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