初秋・動物/明け方や夕暮れに涼しげな澄みきった声で鳴く。寂寥感もあり、秋のものさびしさに通ずる。
ひぐらしをきく水底にゐるごとく 木内怜子
いつだったか、伊豆の修善寺を散策していたとき、夕刻だったと思うが、かなかなの鳴き声におぼれそうになったことがある。
指月殿あたりだったか、あっちからもこっちからも、それこそ水がわきでるように、その清澄な声があふれかえって、身も心もひたってゆくようなすばらしい体験だった。
まさにあの時間、私は水底にいて蜩をきいていたんだなと思う。
とてもシンプルな句だけれど、「水底」以外のひらがな表記が、水の透明感――蜩の声のうつくしさ――を素直に伝えてくれる。
木内怜子(きうちれいこ)1935年、神奈川県生まれの俳人。秋元不死男・鷹羽狩行に師事。夫・木内彰志のあとを継ぎ「海原」を主宰。
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