蝶(ちょう)

三春・動物/一年中見られる昆虫だが、花の蜜を求めて舞ふ春の姿はことにうつくしい。


日本語をはなれし蝶のハヒフヘホ  加藤楸邨


陽気にさそわれて公園のベンチで本をひらいていると、かわいらしい黄蝶がその上にとまった。

おいおい、ここに蜜はありませんぜ。それとも、柄にもなく難解な本に挑んでいる俺をからかってるつもりかい?

風が吹くと蝶は我にかえったように日本語から離れ、花壇のほうへと去っていった。

漢字が窮屈そうにならんだ本から飛びたったくせに、その恰好はどう見ても「ハヒフヘホ」。字面も音も、まさにそれがぴったりだ。

春の公園には、もうすこし軽い本のほうが似合うかな。


加藤楸邨(かとうしゅうそん)1905-1993年。東京生まれの俳人。水原秋櫻子に師事。「寒雷」を創刊・主宰。 



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