春炬燵(はるごたつ)

三春・人事/春になっても置かれたままの炬燵。立春後も寒さが続くので、なかなかしまうことができない。


失業も長くなりけり春炬燵  車谷長吉


実家を出て以来、もう何十年も炬燵とは縁のない生活をつづけている。

「炬燵は人を怠惰にする」とは至言であろうが、私の場合は単に、テーブルとソファの居間に炬燵など置く必要性を感じたことがないからだ。

あれは冬場に実家に帰った気分を味わうためのものでよろしい。

さて長吉さん、つらい冬がようやく去って、もうだいぶん暖かくなってきたというのに、まだ仕事は決まらず、いや、決めようとせず、ぐずぐずと炬燵で夢をみているんですか。

いっそ思いきって炬燵なんざ売っぱらって、お天道様の下へ出ていきゃあ新しい道がみえてくるかもしれないのに、あと一日とばかりにその踏んぎりがつかずに炬燵に甘えてしまう寒い春の日、そんな日が私にもたしかにあったから、この一句は身にしみる。


車谷長吉(くるまたにちょうきつ)1945-2015年。兵庫県生まれの小説家・随筆家・俳人。


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