初時雨(はつしぐれ)

初冬・天文/その年の冬初めにふる時雨。晴れていたかと思うと一時的にふったりやんだりする天気雨・通り雨のこと。いよいよ冬に入ったという思いがこもる。


初時雨煮鍋の音の静かなり  木下ひでを 


ふいに台所の窓がぱらぱらと音をたてた。雨つぶと雨つぶとがくっついて、ガラスをつーッと伝い落ちていく。

天気予報によれば今夜は冷えこむようだ。これからは鍋料理をあれこれ考えるのも楽しい季節。

煮ものをしているとあたたかくて心地がいい。つい眠たくなってしまう。

家族が帰ってくるまでのしずかなひととき。

ガスの青い炎をぼんやりながめていたら、窓の外が急に明るくなって、雨雲のむこうに冴え冴えとした青い空が光っているのが見えた。

鍋のふたを開けると、わっと白い湯気が立ち上がる。そろそろ火を止めてもいいかな。おいしそうな匂いを閉じこめるようにして、わたしは素早くふたを閉じた。


木下ひでを(きのしたひでお)1939年、中国新京生まれ。元「俳句朝日」編集顧問。



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