冬に入る(ふゆにいる)

初冬・時候/二十四節気の一つ。11月8日頃。まださほど寒くはないが、冬の季節風が吹きはじめ、日暮れも早くなり、冬を迎える緊張感をおぼえる。


昆虫館音なく冬に入らんとす  橋本鶏二


子供のころはさんざん捕まえたり、観察したりしていたにもかかわらず、大人になるとなんとなく虫を遠ざけたい気になるのはなぜだろう。

もっともNHKの「昆虫すごいぜ!」のカマキリ先生こと香川照之氏のように、昆虫をみつけては異常なほどに大興奮してしまう素敵なオジサンももちろんいらっしゃる。解剖学者の養老孟司氏の昆虫標本なぞは単なる昆虫好きの域をとうに超えていると思ってしまう。

昆虫とひと口にいっても、その冬越しの姿は成虫、蛹、卵などさまざまだろうが、たくさんの昆虫たちが春がやってくるまでの間、それぞれの姿で自分の居心地のいい場所で寒さをしのごうとしているのだ。それはなぜかしら、人間が冷える夜にあたたかい布団にくるまって眠りにつくときの至福の時を思わせる。

まるで何もかもが死に絶えてしまったかのような静寂につつまれた昆虫館は、いままさに「冬に入らんと」している。それは次の季節に、また新たな生命をつないでゆくまでのつかのまの休息にすぎないのだろうけれど。


橋本鶏二(はしもとけいじ)1907-1990年。三重県生まれの俳人。高浜虚子に師事。「年輪」を創刊・主宰。



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