晩春・植物/桜が爛漫と咲きほこるさま。
人体冷えて東北白い花盛り 金子兜太
雪の白におおわれていた東北の大地は、咲き乱れる花々の白に飾られてようやく春を迎える。
空は晴れわたり眩い光が満ちてはいるが、清浄な空気は冷えていて、まだどこか緊張感を残している。
東京のように花見客でごった返す陽気な花盛りとは明らかに異質な、静寂のうちにあるうつくしさに、血が透きとおってゆくような気さえする。
その大きな景色のなかに、ぽつんぽつんとちいさな人を発見する。農作業に勤しむ人だろうか、村道を歩く人だろうか。
「人体」という無味な単語によって、点景のようにしてある東北の人の姿がよりあざやかに浮かび上がってくるように思う。それが「冷えて」いるにちがいないと想像するところに、作者の東北の人々への思いがくみとれる。
この句を読むと、列車や自分の運転する車で東北を移動したことのある私の脳裏には、そのとき車窓にひろがっていた光景が瞬時に流れはじめる。
どこまで走っても家並みの切れない都会から訪れた者に、東北の集落は心細くなるほど疎らで、人は群れずにちっぽけなままで暮らしているように映った。
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