ヒヤシンス

晩春・植物/地中海沿岸原産の球根植物。直立した花茎に香りのよい小花が密集してひらく。水栽培にも向く。


銀河系のとある酒場のヒヤシンス  橋閒石


あまりにも広大でとらえどころのない銀河系から、いきなり酒場へと絞りこまれるスケールの縮小感が快い。

夜の都会には銀河系の星のように数えきれないほどの酒場があるのに、今宵この店に入り、カウンターのとなりに居合わせた人と意気投合したのは、まったくの偶然だ。

しかし偶然を必然ととらえるかどうかは、けっきょく自分次第。

この気分の高揚は、はずむ会話のせいか、うまい酒の酔いのせいか、あるいはヒヤシンスの濃厚な甘い香りのせいだろうか。

透明なガラスの容器にとぐろを巻いたようなヒヤシンスの白い根。スポットライトをあびて光る水のなかで、それは気恥ずかしくなるくらいに露わだ。

先刻からわたしと同じ酒を飲みはじめた彼女とヒヤシンス。シャツのブルーと花のブルーと、それを見比べてしまうわたしは今夜、余程どうかしているのだろう。


橋閒石(はしかんせき)1903-1992年。石川県生まれの俳人・英文学者。俳句は独学。


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