春疾風(はるはやて)

三春・天文/春の強風のこと。低気圧が東海上にぬけるときに起こりやすく、台風並みの暴風となることもある。


ネクタイの端が顔打つ春疾風  米澤吾亦紅


きょうから毎日ネクタイを首からぶらさげて出勤か。めんどくさいな。

みんな同じような色のスーツ姿で改札から街へ流れ出ていく。

うわッ、風が強いな。耳もとでひゅんひゅん鳴ってる。

紙くずが舞い上がって、立て看板が倒れたと思ったら、顔面に痛みが走った。

ネクタイめ、俺に活を入れるつもりか。たしかに眠気はさめたけど。

肩をたたかれふり向くと、同期のにこやかな顔。一気に緊張がほぐれる。

そこへまた疾風がかけぬけ、ネクタイの無残な一撃をくらう。

思わず同期のネクタイに目をやると、なんだかおしゃれなネクタイピンが光っているではないか。

こうして俺の社会人一日目は始まった。


米澤吾亦紅(よねざわわれもこう)1901-1986年。長崎県生まれの俳人・造船技師。「燕巣」を創刊・主宰。


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