初春・時候/立春をすぎても寒さの残る、春らしさの整っていないころ。
浅春や音一つなき楽器店 土生重次
楽器店でなにか違和感をおぼえるのは、たくさんの楽器に囲まれながらも、そこから音がいっさい聞こえてこないからだろう。
大勢の人がいるのに声がしない朝の通勤電車にすこし似ているけれど、人には体温があっても、楽器は硬質でつめたい感じがだいぶちがう。
ギターでも、ピアノでも、ハーモニカでもいい。音を出したら見えない音符が踊りだし、もっと春らしくなりそうなものを。
土生重次(はぶじゅうじ)1935-2001年。大阪府生まれの俳人。「扉」を創刊・主宰。
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