シクラメン

三春・植物/地中海原産のサクラソウ科の球根植物。花は長い花茎の先に一つ下向きに咲く。


美しきうなじ蕾のシクラメン  片山由美子


子供のころ家族でときどき行ったとんかつ店。そこに飾られていた風変わりな鉢植えの花を母がいたく気に入ったこと、よしのちゃん(洋風の家に住んでいたクラスメイト)の家に似合いそうな花だと思ったことを憶えている。それがシクラメンだった。

とんかつとシクラメンで一句、はさておき、「美しきうなじ」とくれば女性のそれを思って読んでしまうが、まさか「蕾のシクラメン」とは!

俳句は観察から、とよくいうけれど、この一句はまさにそう。

窓辺に置いた鉢植えの日当たりや土のかわき具合を気にかけながら、つぼみの生長を毎日観察しているのだろう。

花びらが下から上に反りかえるようにして咲くシクラメンは、その独特の花の姿から篝火草ともよばれる。花はもちろん美しいのだが、作者はきっとつぼみの美しさにも気づいたのだ。

ネジのような尖ったつぼみは細長い茎が曲がった先にあり、うつむくように下を向いている。茎は日ごとに伸び、つぼみはふくらんでいくが、ひらききるまで茎の曲がった部分がずっと見えている。

それを「うなじ」に見立て、そっとふれながら、きれいに咲いてねなんて声をかけているような片山さん。好きだなあ。


片山由美子(かたやまゆみこ)1952年、千葉県生まれの俳人。鷹羽狩行に師事。「香雨」を創刊・主宰。





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