猩々木(しょうじょうぼく)

仲冬・植物/ポインセチアの和名。トウダイグサ科のメキシコ原産の常緑低木。花をとりまく大きな苞葉が赤やピンク、白に色づきうつくしい。温室で栽培され、クリスマスが近づくころに鉢物や切り花として出回り、目をひく。


時計鳴り猩々木の緋が静か  阿部筲人 


街の裏通りにある古本屋。老いた店主が居眠りしている。

ふいに時を告げる柱時計が三つばかり鳴った。

店主は涎をすすりながら顔を上げ、眼鏡を指先で押し上げて店内を見まわす。

ほこりくさい色あせた本たちが床から天井までぎっしりとつまった狭い店内に、客の姿は一人もない。

柱時計の振り子の音と、石油ストーブの上のやかんが湯気をたててカラカラ鳴るかすかな音がきこえるばかり。

店主の座るレジの脇に置かれた猩々木の緋色の葉が、静かであればあるほど、よりあざやかに濃く色づいていくかのようだ。


阿部筲人(あべしょうじん)1900-1968年。東京生まれの俳人・三省堂勤務。「好日」を創刊・主宰。



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