山眠る(やまねむる)

三冬・地理/冬日を受けて、眠るように静まりかえった山を擬人化していう。北宋の画家・郭煕著『臥遊録』の「冬山惨淡として眠るが如し」によるといわれている。


山眠る肋に似たる非といふ字  後藤兼志


たしかにいわれてみれば、「非」という字の姿は肋骨の形に似ている。

だからなんなのさ、という気持ちにもなるけれど、季語「山眠る」にぶつけられると詩になってしまうところが、やはり俳句のおもしろさだ。

作者は「非」という字をみずから書きつけたのだろうか。それとも書かれた「非」を見たのだろうか。あるいはまた、木々はすっかり葉を落とし、骨だらけになったような冬の山。その山を見て「非」という字を唐突にも思い浮かべたのだろうか。

眠る山の規則正しいしずかな寝息に呼応するかのように、肋骨におおわれた肺がふくらんだり縮んだりをくりかえし、人もやがておだやかな眠りに落ちていくのだろうか。


後藤兼志(ごとうけんじ)1947-2013年。愛知県生まれの俳人。


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