夏至(げし)

仲夏・時候/二十四節気の一つ。6月21日頃。北半球では太陽が一年で最も高い位置にあり、昼がいちばん長い。


地下鉄にかすかな峠ありて夏至  正木ゆう子


あ、いま下ってるな、と地下鉄に揺られながら感じたことがある。

「峠」だから、上って下る、その勾配に気づいた作者。だんだん昼が長くなってまた短くなっていく境となる「夏至」のイメージとそれは重なり合う。

昼が短くなるといっても、それは毎日感じとれないほどの微小な変化であり、地下鉄の勾配もまただれもが認識するほど大きなものではなくて、「かすかな」の一語がまったく異質な二つのものをつなぎとめている。

本格的な夏の到来――強烈な陽ざし――を思わせる夏至を、外光の射さない地下鉄でとらえている妙は、仮に季語が「冬至」だとしたら失われてしまう。

「地下鉄」「峠」「夏至」。一見バラバラなことばたちは、一本のやわらかな感性の糸で結ばれている。


正木ゆう子(まさきゆうこ)1952年、熊本県生まれの俳人。能村登四郎に師事。 



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